2024.04.16 Tue
[前編] 医療AIによる衝撃のオンライン無人クリニック診療の近未来
高齢化社会がもたらす新しいヘルスケア時代
日本の医療は技術や治療費、皆保険制度や医療費負担の割合など、どの点においても世界で最もすぐれた医療システムの一つであるといえます。
近年は、優れた医療制度のためか日本人の平均寿命は年々伸び続け、WHO(世界保健機関)が発表した2023年版の世界保健統計によると世界一の長寿国(男性のみは2位)とデータ公開がされております。
厚生労働省の推計によると、日本人の平均寿命は今後も伸び続け、2040年には86.45歳になると推計されています。
ところが2023年度世界の最長寿国日本は、その優れた医療インフラシステムとアンバランスな人口ピラミッドの影響で、医療費負担額の著しい増加による社会保障費の膨張という、大きな課題に直面しています。
婚姻率の低下や晩婚化、かかる生活費負担や教育費の負担増の一方で、社会保障費用の負担はさらに増加しており、今後も出生率は低下していく可能性が高いことも要因の一つといえます。
現在の医療制度の維持が困難であることはかなり以前から議論されており、近年は医療AIやIoT機器を利用した介護ロボットなどが本格的に普及していくことが現実的になってきています。
DOKTOR noteでは最新のAIテクノロジーがどのように医療業界を変革し、無人クリニックとオンライン診療がどのように医療のメインストリームとなっていくかを探ります。
AIとネット技術の組み合わせによる無人クリニック診療は、24時間365日、患者のために稼働できます。
一方、オンライン診療は、地理的な制約や多くの物理的制限を超えて医療を提供し、医師と患者の間のコミュニケーションだけでなく、従来多くの人が描いていた医療のあり方を革新します。
これらの進歩はまだまだリスクヘッジが必要であるものの、医療のアクセシビリティを向上させ、患者の治療結果を改善するきわめて高い可能性があります。
ただし、これらの変革がもたらす近未来の衝撃は、私たちが想像するよりも早期に実社会に導入されるかもしれません。
従来型のセルフヘルスケアや医療に関するフォーマライズされた概念に慣れ親しんだ私たちは、予想よりも遥かに早く実現されるであろう医療革命をどのように受け入れ、適応していくべきでしょうか。
また、どうしてそのような医療の変革が前倒しで推進されるかの理由や原因について、今回のDOKTOR noteでは探求してみます。
新しいヘルスケア概念が確立されるべく近未来に対して、柔軟に可能性を探り一緒に推察してみましょう。
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45年以上医療とAIに携わってきた医学博士が、医療AIがどう発展してきて、これからどうなるかを解説! AIが発展すると、私たちの体を医師が診るのか、AIが診るようになるのかといった議論がわき起こっています。
日本史上初の減退期に増え続ける老齢人口
過去最高の老齢人口増で直面する新たな課題
日本の国号の成立が7世紀末の天武天皇の時代とすれば、人口の増加と国力や国の豊かさは1300年ほど絶え間なく上昇してきたといえます。
1989年には世界時価総額ランキングの上位50社中のうち日本企業は32社で占められており、上位5社がすべて日本企業であるという隆盛ぶりでした。
情報源:昭和という「レガシー」を引きずった平成30年間の経済停滞を振り返る[週間ダイヤモンド]
もちろん、短期的には多少の変動はあったはずだし、正確性の立証は難しいものの室町時代からの人口の推移と日本の経済状況は相対的に比例関係していたことがわかります。
ところが、私たち日本人は、2008年の1億2,808万人(総務省統計局)をピークに日本史上初めてとなる人口減少という事象と向き合っています。
別の総務省の統計データでは2004年の12月に1億2,784万人が総人口のピークとする推計データもあるが、おそらく2007年度時点では正しい統計データであった可能性が高い。
また外国人の就労ビザや技術就労ビザで3ヵ月以上滞在している外国人も日本人の総人口としてカウントされるため、一時的な人口増加はそのような要因と高齢者の長寿化など、複数の要因により統計予測が上振れした可能性があります。
特に当時の政権下では外国人労働者を招き入れる積極的な政策が推進されており、2004年時点の日本人の人口ピークという推計データが大きく影響している可能性はとても高いでしょう。
主題を私たちの日本の人口のピークと2008年度以降に始まった日本史上初の人口減少に戻します。
この人口減少化は、単純に日本人の全体の人口が減退していくのではなく、年齢層の構造がとてもいびつであることが大きな問題とされています。
中でも65歳以上の高齢者人口や75歳以上の後期高齢者層の割合は増え続けており、社会保障システムへの圧力が高まっています。
これは医療技術の進歩と食生活の変化、衛生環境や健康意識の向上により、人々が以前の時代に比べて長生きができるようになっている社会構造が構築されてきた結果でもあります。
このような状況は、単純に日本人の長寿化が手放しで喜べる状態ではなく、新たな社会保障政策の策定、介護サービスのさらなる拡充、そして持続可能な年金システムの再構築が早急な改善要件であることが明確になっています。
高齢者の人口は2025年には過去最多となる3600万人を超えると予測されており、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上になる2040年には35.3%と、さらに国を構成する生産労働人口のバランスの偏りが大きくなることは確実視されています。
これは、総人口の3人に1人以上が65歳以上であることを意味します。
生物学的な老化現象をもとに推察すれば、いくら健康であっても加齢により医療や介護の需要が急増する一方、それを支える現役世代の数が減少していくという、日本史上これまで経験したことのない課題が突き付けられていることになります。
単純に予測するだけでも、医療費は増大し医療機関への負荷や医薬品需要が増大していき、かかる社会保障費の確保のために租税率をアップさせたり年金支給時期や金額を大きく遅らせて減らしたりするということが従来の政策改正からも想定されますが、事態はそれほど単純に予想することができないと推察されます。
人口減少高齢化社会で懸念されること
医療・介護サービスへの負荷増大
従来の高齢化社会とは異なり、人口減少時代における高齢者数の増加は、医療・介護サービスへの負荷をさらに増大させます。医療機関や介護施設の不足、医療従事者や介護職員の人材不足、そして医療費や介護費の高騰など、解決すべき課題は山積しています。
高齢者と現役世代の共生
高齢化社会の新たなステージを乗り越え、持続可能な社会を実現するためには、高齢者と現役世代の共生が不可欠です。高齢者の健康寿命を延ばし、社会参加を促進するための取り組みと同時に、現役世代の負担軽減に向けた政策が必要となります。
多様な価値観とニーズに対応する社会
単に高齢者を支えるだけでなく、高齢者一人ひとりの多様な価値観やニーズに対応した社会を構築することが求められます。地域コミュニティの活性化、高齢者のための新たな仕事や生きがいづくり、そしてテクノロジーを活用した高齢者支援など、様々な取り組みが必要となります。
次の章では、人口減少化にともなう医療費の推移をもとに推察を深めていきます。
50年前にすでに政府は今の状態を想定していた
国が予想するほど増えなかった医療費の謎
医療費予測のパラドックス
ここに医療費に関するひとつの興味深いデータを発見しました。
これは2001年3月に厚生労働省の報道発表資料として公表された報告資料のグラフです。
データグラフの推計によると、日本の医療費は2005年は37兆円、2010年度は46兆円、2015年になると57兆円に到達すると推計されている。
さらに2020年度には68兆円に到達して、その後も毎年数兆円づつ増加していくと推計されています。
実際に、令和5(2023)年度の国の税収入(一般会計歳入)69兆4,400億円ですから、2001年時点の推計では、医療費だけで国の一年間の税収を超えてしまうと予測されていました。
ところが実際には、2005年度の国民医療費は33兆1289億円、前年度の32兆1111億円に比べ1兆178億円で3.2%増加しているが、2001年の推計である37兆円よりも4兆円近く下回る数値になっている。
さらに、2010年度の国民医療費は37兆 4202億円、前年度36兆67億円比で1兆4135億円増加の3.9%増となっているものの推計値の46兆円よりも大きく下回り、2015年が42兆3,644億円で前年度比で1兆5,573億円増加の3.8%の増ではあるが、やはりこちらも2001年公開されている推計値の57兆円よりも大きく医療費が抑えられているようにも見受けられる。
2001年の予測値をあえて大きく試算しておくことで、行政組織としての恣意的な政治的試算や社会の混乱を抑制しようとする思惑があったとしても、国の予測に反して医療費の増加が大きく抑えられているのはどうしてだろうか。
これらの要因については、予防医療の普及、ジェネリック医薬品の使用増加、そして医療技術の効率化が関係していると考えられます。
また、医療は統計分類学的な側面も持つため、データ分析の進歩により、より効果的な治療法が開発され、効果のない医療行為が減少している可能性もあります。
この医療の進歩による医療費の抑制現象は、今後の医療費予測において重要な示唆を与えています。
ちなみに、2020年度の国民医療費は42兆9,665億円、前年度の44兆3,895億円に比べ1兆4,230億円で3.2%減額と、国民皆保険制度が始まった1961年以来、初めての減少となっているが、主な要因はCOVID-19(新型コロナウイルス)パンデミックによる影響が大きいとされています。
新型コロナウイルス感染症は世界保健機関(WHO)により2020年3月11日にパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明されました。
その年の国民医療費が、それまで上昇し続けていた国民医療費を前年度割れさせたのは、なにか私たちに医療制度についての向き合い方を熟慮させる良い機会になっているかもしれません。
情報源:IDWR 2020年第21号<注目すべき感染症> 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)国立感染症研究所
いずれにしても、2020年度の国の租税収および印紙収入(一般会計歳入)は63兆5,130億円ですから、国の税収の実に67.6%ほどが医療費になっているのが現実です。
さらに、国民一人当たりの医療費負担は増大の一途を辿っており、今後も国民医療費が増え続けないであろうという逆張り的予測をたてる余地はどこにもありません。
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医療費の抑制と起こりうる変化
医療費伸び率の鈍化
近年、政府は医療費抑制政策を積極的に推進していますが、その効果は限定的であるという指摘があります。確かに、医療費伸び率は近年鈍化傾向にありますが、これは国が当初予想していたほどの水準ではありません。
医療サービスの質と患者のニーズ
医療費抑制政策が十分な効果を発揮していない理由は、いくつか考えられます。まず、医療サービスの質を維持しながら医療費を抑制するのは容易ではありません。さらに、高齢化社会の進展により、患者のニーズはますます多様化しており、従来の医療費抑制策では対応しきれない状況となっています。
医療サービスの質と効率の両立
今後、医療費抑制をさらに進めていくためには、医療サービスの質と効率の両立を図ることが重要となります。具体的には、医療従事者の働き方改革、医療機器の導入促進、そしてジェネリック医薬品の利用拡大などが考えられます。
患者中心の医療の実現
医療費抑制を進める一方で、患者の権利を尊重し、患者中心の医療を実現することも忘れてはなりません。患者が適切な医療サービスを受けられるように、医療情報へのアクセスを容易にすることや、患者の意思決定を支援する仕組みを構築することが必要となります。
パンデミックが押し下げた国民医療費
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